『伊賀の人・松尾芭蕉』
平成三十年に小説集「芭蕉と其角」を上梓致しましたが、その執筆に際し芭蕉の各種文献に当たる必要に迫られました。 そして、その折々に印象に残った点を書き留めるうち、小説とは別の形でまとめたいという思いが強くなりました。 幸いこれを朝日新聞に「芭蕉の横顔」という題で六十回連載する機会を得、そして今回これをベースに加筆し、文芸春秋より文春新書として、「伊賀の人・松尾芭蕉」というタイトルで出版するものです。
さて芭蕉の神格化は間違いです。 普通の人間として描くことが基本姿勢でした。 これで芭蕉を貶めることは決してなく、むしろ真価を高めることになるからです。 なぜなら、芭蕉は人並みに栄達を望む煩悩多き野心家だったのです。 その偉大さは、いかにその煩悩を捨て、聖人と称えられるまで自己陶冶したかにあります。 その直向きに精進したプロセスに私達は心を揺さぶられるのです。 そして、述べ尽されてきたともいえる芭蕉像に、独りよがりに陥る恐れを意識しつつも新しい切り口でのぞみました。
そして旅の多くを亡き父母の主たる年忌に合わせるなど、まるで江戸という出稼ぎ地から戻るように、故郷の伊賀に頻繁に帰っていました。 旅の軌跡を追えば、俳諧活動の中心だった中京・関西圏にあって、伊賀が地理的にその中心に位置するだけではなく、心の本拠であったことがわかります。 江戸深川の芭蕉庵がクローズアップされがちですが、伊賀の人として俳諧人生を全うしたと表現されるべきなのです。 本書のタイトルを「伊賀の人・松尾芭蕉」とした所以です。 新書という性格上わかりやすさを重視しましたので、気軽にお読みいただけるものです。
北村純一(経済学部S46卒)
※文芸春秋BOOKS のページへ :文春新書『伊賀の人・松尾芭蕉』(著者:北村純一)
※ 朝日新聞デジタルのページへ:「伊賀の人・松尾芭蕉」出版 作家の北村純一氏 三重
※ 産経新聞/ライフ・本のページへ:新書『伊賀の人・松尾芭蕉』
※ 毎日新聞のページへ:伊賀の人芭蕉、多角的に 作家・北村さん 新書で分かりやすく 伊賀広域 /三重
※関連ページへ:図書情報(市大/同窓)
https://www.osaka-cu.net/news/2021/10/23153822